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[ オークバレル ]

樽はいつ、どこで生まれたのでしょう?

樽はいつどこで
生まれたのでしょう?

the origination of the barrels

ある研究家の説によると、樽は“ゲルマンによる木材文化とローマの技術文化から成り立ち、 中心文化圏へのワイン輸送の増大化とともに普及した”と推測されています。

かの英雄ジュリアス・シーザーが、8回にわたるガリア遠征で、 北方の民族が持つ樽作りの技術を西洋文化圏に伝播したとの説も。しかし、口述文化を踏襲する彼らには、日常生活の情景が残されておらず、残念ながらそのオリジン、軌跡をたどることができません。

ビール、ワイン、オイルなど液体の貯蔵容器は、地域により独自の工夫がされてきました。地中海沿岸文化では、樽以前あるいは平行して素焼きのアンフォラが使われてきました。ギリシャやローマ、 果てはエジプト、シリアのメソポタミア文明の壁画、彫刻、銅版など遺跡芸術からも素焼き容器、動物の皮袋などが使われていたのを伺い知ることができます。樽の存在をさかのぼれるのは、せいぜいキリスト生誕半世紀前まで。 あとは推測に頼るのみです。

樽の出現によりそれまで難しかったワインやその他液体の貯蔵、運搬が飛躍的に便利になり、やがて広く世界に広まっていきました。

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バレルのあれこれ

樽のかたち

樽の原型は、丸太をくりぬいた胴に皮のフタをしたものと思われます。そして、使ううちに丸太が割れ、締め上げ修理に使った木などの皮が、タガとして進化したのではないか?北方ヨーロッパの民族により発明された樽は、時を経て他の木工技術(造船技術、車輪製造など)と融合しながら進化し、現在の形になりました。

さて、樽のデザインのお手本となったのはなんでしょう。思うにこれは卵ではなかったのでは・・・それでは、樽のどこがデザイン的に優れているのでしょう?

メリット① 頑強さ:3D ダブルアーチ構造で、あらゆる方向からの荷重を支え、衝撃を分散します。段積みしても上からの大きな荷重によく耐えます。

メリット② 転がりやすく、扱いやすい:大きく重い樽ですが、コツを覚えると扱いが大変簡単です。

メリット③ 澱引きに便利:ワインでは沈降した澱が樽の胴中心部に集約され澱引きにとても便利です。また、補填の際、胴のふくらみがワインを満杯に満たすのを容易にするメリットも。スピリッツの場合、樽内の原酒が自然の大気圧を受け、樽の3Dアーチ構造ゆえに大変ゆっくりと対流し攪拌、均等化されます。

メリット④ 補填に便利:樽は横置きにすること、干し穴(酒を充填、排出する穴)を胴の真ん中の一番ふくらんだところにあけることにより補填が大変便利かつ的確に行えます。ワインの貯蔵熟成では空気との接触を避けるためいつも樽は満杯に保たれます。3Dアーチのメリットで干し穴の部分にまず空寸ができます。

卵の殻をとおして呼吸し、健やかに育つ胎児。樽の掌に抱かれて熟成する原酒。共通点は多々見られます。

樽にまつわるこんなお話があります。

むかし、あるところに、ぶどう園を持つ一家がありました。ぶどうからワインを作り、納屋にはいろんな動物を飼っています。動物のなかでも重宝したのは豚で、使い道のひとつに皮袋がありました。

秋。農夫は、搾りたてのワインを豚の皮袋に入れます。するとおかみさんは、農夫に「栓をしないでね」と、注意しました。でも、農夫はしっかりと栓をしてしまいます。そして、それを子供が涼しい洞穴に運ぼうとしました。が、途中で皮袋は見る見る大きく膨らみ始め、子どもは袋を落としてしまいます。皮袋は破裂しワインはこぼれ、利益は台無し。パーティーもぶち壊しで、皆のイライラはつのります。

家族が集まって、粘土を捏ねてポットを作りました。できたポットは焚き火のそばで乾かします。次の秋、収穫が始まります。家族は沢山のポットにワインで満たしました。子供は、ポットを涼しい洞窟に運び始めました。しかし子供はまだ力が弱く、途中でポットを地面に落としてしまいます。ポットは割れてワインはこぼれ、利益は台無し。パーティーもぶち壊しで、皆のイライラは増します。

家族が集まって、オークの板を集めます。板を焚き火のそばで乾かすと、板が曲がってきました。そこへやってきたのが錬金術を使う男。彼は、オークの板を使って、あ~っという間に樽に仕立てあげます。秋になり、今年もワインが搾られ、樽は満たされました。子供は、樽をセラーに転がしていきます。ワインはみなで飲まれ、利益が もたらされ、パーティーは盛り上がりまりました。

めでたし、めでたし。

樽材に求められる資質

  • 頑強な樽をつくるのに必要な強さ
  • 樽材に加工(割材)が容易さ
  • 曲げなど、樽加工が簡単さ
  • 保温性にすぐれている
  • <コントロールドオキシデーション>を促す適度な浸透性

樽のなかでワインに起こる大きな変化

第一に樽材からのさまざまな成分(すでに存在するものまた、製樽時の加熱処理により生ずるもの)の添加によりアロマが生まれ、フレーバーが展開され、より複雑なワインになります。

そしてワインは樽材の浸透性により<コントロールドオキシデーション>とよばれる現象にさらされます。樽から出された段階でワインは唯単に木香が添加される以上に、目覚しい変化がみられます。

オークで樽をつくること

悪い木材では良い樽はできません。オークの材質はワイン、スピリッツの熟成樽として最適です。

まず樽材は適度な浸透性により継続的にワインと微量な酸素とのコンタクトを可能にします。そして適度の固形成分、芳香成分、フェノール類を付加します。オークは主に上側、外側にむかって成長します。生長のとまった心材はリグニンを多く含み、タンニンを飽和しています。樽に使われる部分は全部ではなくシラタ(生長中のやわらかく、漏れやすい部分)生皮、表皮は除かれます。漏りがないようにするためには木の繊維はまっすぐでなければならず、繊維を切断しないように製材しなければなりません。また枝や節がある材は使えません。樽材は最高級の木目のまっすぐで、シラタ、節がなく、年輪が均等な材でなければなりません。あくまでもこれらのポイントをすべてのオーク材に求めるのは不可能です。そこで樽職人はオーク材を早く、簡単かつ正確に選別するための条件を築きあげて来ました。

最も重要視される樽材の産地と木目

リムーザン地方のオークは木目が広い(ワイドグレイン)ことで知られています。アリエール、ヴォージュ地方のものは緻密(タントグレイン)をして知られています。この2点、産地と木目により需要、すなわち取引価格が左右されます。一番人気のあるオーク樽材はセンターオブフランス、アリエール、ブルゴーニュ地方のものおよび、セーヌ・エ・マルヌ、オアーズのものです。これら産地のオーク樽材の取引は年々増えてきています。アメリカのホワイトオークは元来、スピリッツに多用されていましたが、自然乾燥、トースティングの方法が研究され、現在ではワインの熟成にも評価されています。

白ワインの樽内発酵および樽熟成

オーク樽は一時、管理の難しさから不活性な容器(コンクリート、ステンレス、プラスチックなど)に取って代わられましが、ワインメーカーは高級白ワインに再度樽を使い始めました。一部のドライな白ワインはオーク樽で発酵、熟成するのに適しています。白ワインの樽熟成で最も重要なのは酵母とオークの相互作用です。樽の新しさは期待されるオーク香、その質と量および酸化作用の度合に応じて選ばれます。

酵母の細胞壁はポリサッカライドとよばれるコロイド状の炭水化物です。この物質はアルコール発酵のとき細胞壁から放出され、さらにシュールリーの状態で(死滅した酵母の細胞壁から)より多く放出されます。また懸濁状態にオリをかき混ぜ、舞い上がらせること(バトナージュ)によりワイン中のポリサッカロイド濃度は高まり、均等になります。これら物質はワイン中のフェノール類と結合します。そして熟成中ワインは黄変し難くなるとともに、木のタンニンのインパクトを緩和します。ワインは澄んで渋み、収斂性が弱まります。

シュールリー状態で酸化還元変化をコントロール

大樽でオリの上にワインを寝かせた(シュールリー)場合、酸化還元ポテンシャルが落ちこみ、やがて有害な還元臭が生じます。1/10000mgと低い閾値をもつ硫黄化合物の濃度が顕著に上昇します。反対にオークの新樽でオリの上に数ヶ月寝かせたワインでは、コントロールドオキシデーションの効果により、酸化ポテンシャルが強化されます。しかし長期にわたりオリを静置させることは酸化作用を抑制し、還元臭の発生させることになります。そこでオリの攪拌(バトナージュ)により酸化ポテンシャルを高めるとともに、樽内を均等化することができます。

オークは含まれる成分により独特のアロマをワインに与えることが可能です。オークラクトンはココナッツ様、バニリック・アルデヒドはバニラ、オイゲノールはクローブの香味をもたらします。これら香気成分は微量でもテースターは認識できます。しかしこれらの成分が多く含まれ過ぎたワインは粗く、オーク過剰になってしまいます。主発酵がすんでから樽熟成することに比べ樽内発酵+樽熟成されたワインはオーク香が穏やかです。これは酵母の細胞壁とコロイド状炭水化物がある種の香気成分を固定吸着するからです。また、発酵中、酵母の還元作用により香気性の高いバニリック・アルデヒドを無臭性のヴァニリック・アルコールに変えます。同じ理由で、全オリで寝かせたワインは微小のオリのみで寝かせたものよりおいしくなります。

赤ワインの樽熟成

樽は赤ワインにオークの香り、トースティーさ、スモーキーなニュアンスを与え偉大なワインの香りを高めます。香りのみならず、樽はワインの構成、品質に大きな変化をもたらす機能があります。樽熟成で一番大きな効果は<コントロールド・オキシジネーション>酸化還元作用です。樽は多気孔質の素材で干穴、樽材の合わせ目(正直あるいはジョイント)あるいは木部自体から微量の酸素を供給します。新樽に入れられたワインの酸素含有量は0.3~0.5mg/lit.で酸化還元電位は250~350mvです。長期にわたって使われた樽の場合、オリ、酒石酸などで内面がふさがれ酸素含有量、酸化還元電位は低下します。3~5年次(3~5回使用)の樽の含有酸素を比較すると大樽(ヴァット)と同等の酸化熟成効果(含有酸素0.1mg/lit以下、酸化還元電位200mv以下)であると考えられます。

補填により、上部20cmまでのワインに平均1mg/litの酸素が供給され、樽替えのときには2.5~5mg/litの酸素が溶け込みます。樽内の酸化はコントロールされたもので、ゆっくりとワインを成熟させます。樽熟成のあいだ次のことが起こります。炭酸ガスの減少、アルコール発酵+MLF後に舞い上がったオリの沈殿、清澄作用、飽和した重酒石酸カリウムの沈殿による酒石酸(ブドウ、ワインの重要な有機酸)の安定。また、フェノール類(味、色をつかさどるタンニン、色を与えるアントシアニン)に大きな変化をもたらします。タンニン・アントシアニン複合体はワインの色を安定させ、タンニンの凝結はワインをまろやかに、かつ色を鮮やかな、深みのある赤に変えます。適度なタンニンとアントシアニンのバランスが酸化、劣化を抑えると考えられます。反対にアントシアニンが分解すれば赤色は希釈され、タンニンがワインに黄色みをあたえ時期尚早なレンガ色の呈します。

新樽のオークからは数種類の抗酸化成分が得られます。発酵、および白ワインの熟成ででた芳香成分のほかにオークからはエラジタンニン(オーク、クリ特有の水溶性タンニン)が得られます。このフェノール物質はワイン中のほかの物質よりも酸化しやすく、溶け込んだ酸素を消化し、ワインを酸化から守ります。その役割は分子レベルで酸化させることでより重要です。ですからオークタンニンはワインの酸化を調整し、フェノール類のゆっくりした良好な変化、熟成を促します。また酸化分解還元作用を減退させます。この理由により密閉されたステンレスタンクでは得られない効果があります。樽内面に凝固したポリサッカライドはゆっくりワインに溶けだしワインをまろやかにするとともに渋いタンニンを和らげます。

Office National des Forets(フランス森林公社)の資料をもとにオークバレルが加筆作成したものです。内容について、不適当な部分のご指摘、またご意見などいただければ幸いです。

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洋樽について

日本醸造協会雑誌 1982年誌掲載(早川清)

1982年、ウィスキー市場はますます勢いをまし空前の売り上げを記録します。高級ブランデーも街のスナックにボトルキープの花を咲かせていました。洋樽のビジネスが一番活況を呈していた時代です。しかしまだまだ洋樽について情報が少ないころでした。そんなとき発表された文献です。

著者:早川清

1922年2月8日生まれ。1942年青山学院(現大学)高商部卒。1948年早川物産(株)入社、1975 年同社社長就任。香料新技術開発、洋樽技術向上と普及、洋樽インテリア創出に尽力。2012年2月11日没。

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洋樽の歴史と展望

著者:早川雅巳(有限会社オークバレル 取締役会長)

1953年東京生まれ。米国のペンシルバニア州立大学で彫刻を学んだあと帰国。他社での業務経験を経たのち、1980年代から前身の早川物産株式会社(本社:浅草、香料の輸入を主業とした)で、洋樽の輸入や国内生産にたずさわる。2003年、洋樽の輸入販売専業として有限会社オークバレルを横浜に設立。

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